2026年福井豪雨から1か月―白い花の先にある現実と福井のそば畑は今。

2026年8月30日、福井県を襲った記録的な豪雨から約1か月が経ちました。
豪雨直後からカガセイフンでは、大野市、勝山市、永平寺町、坂井市丸岡町など、福井県内の主要なそば産地を回り、その状況をお伝えしてきました。

水に沈んだ圃場。水が引いた後に根腐れを起こしたソバ。何もなくなってしまった畑。そして、厳しい状況の中でも何とか生き残り、白い花を咲かせたソバ。

あれから1か月。

再び各産地を回ってみると、地域によって、そして同じ地域の中でも、圃場によって状況に大きな差が生まれていることが分かってきました。

大野・勝山・永平寺では白い花が広がる

大野市、勝山市、永平寺町では、ソバの白い花が咲き始めています。
豪雨直後の状況を見てきただけに、白い花が広がる光景には胸をなで下ろすものがあります。

もちろん、豪雨の影響を受けた圃場は多く、例年と比較すれば減収や作柄の悪化は避けられないと思われます。それでも、比較的被害の少なかった圃場では、想像していた以上にソバが残っていました。現時点で言えるのは、福井県内すべてのソバが駄目になったわけではないということです。

厳しい圃場では平年の半作以下となる可能性もあります。一方で、このまま大きな自然災害がなければ、収穫までたどり着けそうな圃場もあります。今年ほど、畑を一括りにして語ることが難しい年はありません。

2026年福井豪雨から1か月―白い花の先にある現実と福井のそば畑は今。
▲永平寺町のそば圃場

隣り合う畑で、なぜこれほど違うのか

今回、産地を回っていて非常に興味深かったことがあります。
道路一本隔てた圃場どころか、すぐ隣り合った圃場なのに、一方では白い花がきれいに咲き、もう一方にはほとんどソバが残っていない。

そんな光景が見られました。
この違いを生んだ要因の一つとして考えられるのが、「種を播いた時期」です。
特に被害が大きかったのが、8月初旬に播種された圃場でした。丸岡町や福井市でも、この時期に播かれたソバは豪雨時にはすでに背丈が15cmを超えるほどに成長していました。そこへ大量の水が押し寄せ、長時間浸水したことで大きなダメージを受けました。

一方、その1~2週間ほど後に播種した圃場では、豪雨が来た時点でまだ発芽して間もなく、植物体も小さかったことなどから、結果として比較的被害が少なく済んだ場所があります。

わずか1週間、2週間。
同じ地域で、同じ豪雨を受け、同じ福井在来種を育てていても、種を播いた時期のわずかな違いが、その後の明暗を分けました。

自然を相手にする農業の難しさを、改めて感じます。

白い花が咲いたから「もう大丈夫」ではない

今きれいに花を咲かせている圃場も、決して安心できる状態ではありません。
遠くから眺めれば、一面に白い花が広がり、「今年も何とか収穫できそうだ」と思える圃場があります。

しかし畑に入り、一株一株を近くで見てみると印象は変わります。
湿害を受けた茎には赤みを帯びたものがあり、細く痩せた株も散見されます。本来なら生育とともに茎はさらに太く、丈夫になっていきます。ところが今年は、豪雨によるダメージから十分に成長できず、細く弱々しい状態のまま花を咲かせているソバが少なくありません。

今後、台風や強風が来れば、倒伏してしまう可能性もあります。
花が咲いていても、十分に実が入るとは限りません。今年の福井のそば畑は、見た目には回復しているようでも、実際にはぎりぎりのところで持ちこたえている。

「白い花が咲いたから安心」。

まだ、そう言える段階ではありません。

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▲花が咲いた直後に枯れるソバ

丸岡町は壊滅的な被害

特に深刻なのは坂井市丸岡町です。
弊社のソバを作ってくださる生産者さんでは、ほとんどの圃場が壊滅的な被害を受け、今年の玄そばの供給は難しい状況となっています。長年ソバを栽培してきた生産者さんにとっても、これほどの大雨被害は初めてだったそうです。

豪雨直後の圃場はぐちゃぐちゃ。
藁をはじめ、さまざまなものが流れ込み、翌日には臭いが出るほどだったといいます。そして、ソバが流されて姿を消すと、今度は雑草が一気に生えてきます。今年の収穫が見込めないからといって、農作業が終わるわけではありません。すでに来年に向けた圃場管理は始まっており、10月末には土を起こし、次の作付けに向けて畑を整えていく予定だそうです。

「もう一度播けばいい」ができなかった理由

豪雨直後には、「もう一度種を播き直せないのか」という考えもありました。
しかし現場は、それほど単純ではありません。

大量の水を含んだ圃場は、足を踏み入れることさえ難しいほどぬかるんでいます。
当然、トラクターなどの農業機械を入れることもできません。
まず、畑が乾くのを待たなければならない。
でも、その間にも時間は過ぎていきます。

ようやく機械を入れられる状態になった頃には、播種してから生育、開花、結実、成熟までを考えると、今年の収穫に間に合わせるには遅すぎる時期になっていました。

種があっても播けない。
播けるようになった時には、もう遅い。

今回の豪雨では、そんな農業の難しさも目の当たりにしました。

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▲播きなおしして2週間ほど経過した福井市の圃場

今年の収穫以上に心配な「来年の種」

そして、もう一つ大きな問題があります。

来年播くための種です。

福井の在来種は、生産者がその土地で収穫した玄そばの一部を翌年の種として残し、何世代にもわたってつないできたものです。今年収穫できなければ、来年播く種まで不足する可能性があります。今回、丸岡町の生産者さんもその問題に直面しました。

そこでカガセイフンでは、保管していた令和5年~7年産の玄そばの一部を、来年の種として生産者さんへお返ししました。

カガセイフンでは3年ほど前、不測の事態にも備えながら原料を長期間良好な状態で保管するため、「氷温倉庫」を設置しました。そこに保管していた玄そばです。

発芽試験を行ったところ、99%という高い発芽率が確認できました。
今年の収穫を失っても、来年また丸岡の畑に種を播くことができる。製粉するために保管していた玄そばが、今度は産地を未来へつなぐ「種」になる。一粒の玄そばの重みを、これほど感じたことはありません。

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▲氷温倉庫で保管していたR5年産の丸岡在来

豪雨被害は「何俵採れるか」だけではない

生産者さんのお話を聞く中で、今回改めて気づかされたことがあります。
豪雨被害は単に、「今年、玄そばが何俵採れるのか」という問題だけではありません。

例年なら10月末ごろから収穫が始まり、その後には乾燥や調製など、さまざまな仕事があります。
しかし今年、収穫そのものがなければ、その仕事もなくなります。そこで新たに生まれるのが、従業員の仕事をどう確保するのかという問題です。

冬場までの雇用をどう守るのか。
収入減少への対応だけでなく、一緒に働いてきた人たちの仕事をどうつないでいくのか。収穫期が近づくにつれ、今年の収量、来年の種、雇用、そして地域のそばに関わる行事など、豪雨直後には見えていなかった次の課題が次々と浮かび上がってきています。

「全部駄目」でも「もう大丈夫」でもない

豪雨から約1か月。
今の福井県内のそば畑を一言で表現するなら、非常に複雑な状況です。丸岡町のように、今年の収穫がほとんど望めないほど深刻な被害を受けた地域があります。その一方、大野市、勝山市、永平寺町などでは、減収や品質への影響が心配されながらも、白い花を咲かせ、収穫までたどり着こうとしているソバがあります。

さらに同じ地域、隣り合った圃場でさえ、播種時期や圃場条件によって状況が大きく異なります。
だから今の段階では、

「今年の福井県産そばは全部駄目だ」とも言えません。
反対に「白い花が咲いたから、もう大丈夫」とも言えません。

これから実がつき、成熟し、刈り取りを迎えるまでには、まだ時間があります。
台風が来るかもしれない。強風で弱った株が倒伏するかもしれない。花が咲いても、十分に実が入らない可能性もあります。

2026年福井豪雨から1か月―白い花の先にある現実と福井のそば畑は今。
▲白い花が咲き始めた大野在来

2026年産の福井県産玄そばを最終的にどれほど収穫できるのか。そして、その品質はどうなるのか。
答えが出るのは、実際に収穫を終えてからです。そして今年の収穫と同じくらい大切なのが、来年へ福井在来種の「種」をどうつないでいくのかということ。

カガセイフンではこれから収穫を迎えるまで、引き続き各産地へ足を運びます。
白い花がどれだけ実を結ぶのか。
今年の玄そばがどれだけ残るのか。
そして生産者さんたちが来年へ向けて、どのように動き始めるのか。

福井のそば畑で今起きていることを、良いことも厳しい現実も含め、これからもありのままお伝えしていきます。

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