2026福井豪雨から10日―ソバ被害約1,400ha。「今年の収穫」だけではない、福井在来種を未来へつなぐ危機。

2026年8月30日に福井県を襲った記録的な豪雨から10日余りが経ちました。

8月31日のブログでは、福井市、坂井市丸岡町、永平寺町、大野市、勝山市など、福井県内の主要なそば産地が広範囲にわたって浸水した状況をお伝えしました。

9月1日には、水が引いた後の圃場を回り、青々としていた葉が萎れ、茎が痩せ、わずか数日で枯れ始めているソバの姿を確認しました。さらに9月2日には、大野市や勝山市を訪れ、同じ豪雨を受けても、圃場によって壊滅的な被害を受けた場所と、何とか持ちこたえている場所があることもお伝えしました。

あれからさらに時間が経ち、今回の豪雨が福井県産そばに与えた影響が、少しずつ具体的な数字として見えてきました。そして今、僕たちが最も心配しているのは、「今年の福井県産そばがどれだけ収穫できるのか」だけではありません。

その先にある、「来年、福井在来種を播くことができるのか」という問題です。

2026福井豪雨から10日―ソバ被害約1,400ha。「今年の収穫」だけではない、福井在来種を未来へつなぐ危機。
▲枯れたソバを覆うように生い茂る雑草

約1,400ヘクタール。想像を超えていたソバの被害

福井県内では今回の豪雨によって、約1,700ヘクタールの農地に浸水・冠水などの被害が確認され、そのうちソバは約1,400ヘクタール。農地被害の8割以上がソバに集中しています。

8月31日に最初の記事を書いた時点では、まだ被害の全容が分かりませんでした。
僕自身、各産地を車で回りながら、水没した畑を見て、「これは相当な被害になる」と感じていました。それでも、約1,400ヘクタールという数字を見ると、改めて今回の豪雨の規模に言葉を失います。

福井県のソバは、一つの場所だけで栽培されているわけではありません。
福井市、坂井市丸岡町、大野市、勝山市、永平寺町、越前市など、それぞれの土地で、その地域に根付いてきた在来種が受け継がれています。

だからこそ福井は「在来種ソバ王国」とも呼ばれてきました。
今回の豪雨は、その産地を横断するように襲いました。

丸岡では約31haのそば畑がほぼ冠水

中でも深刻なのが、坂井市丸岡町です。
弊社のそばを栽培してくださっている生産者さんのそば畑は約31ヘクタール。そのほとんどが冠水しました。8月中旬と下旬の2回に分けて播種し、ようやく青々とした苗が育ってきたところでした。

しかし豪雨によって、小さな苗は流され、成長していたソバも根元から黒くなり、腐り始めました。水が引いた後も暑い日が続き、畑の温度が上がったことで、さらに苗へのダメージが広がったそうです。僕も豪雨直後から丸岡町の圃場を確認しましたが、圃場一面が水に覆われ、湖のようになっていました。水が引いた後には、葉を失い、黒ずみ、力なく倒れているソバ。その光景を自分の目で見てきただけに、「今年は収穫できない」という生産者さんの言葉の重さを感じます。

2026福井豪雨から10日―ソバ被害約1,400ha。「今年の収穫」だけではない、福井在来種を未来へつなぐ危機。
▲浸水による根腐れで黒ずみ枯れるソバ

本当に怖いのは「今年採れない」だけではない

そして今回、もう一つ大きな問題が明らかになりました。

「種」です。

福井の在来種は、その土地で長い年月をかけて受け継がれてきたソバです。収穫した玄そばのすべてが商品になるわけではありません。その一部を翌年播くための「種」として残し、次の世代へつないでいくのですが、今年は播いた種そのものが苗ごと流されました。

つまり、「今年売る玄そばがない」という問題と同時に、「来年播く種が足りない」という問題が起き始めています。丸岡町では、同じように種を失った生産者さんが出てくる可能性があります。

製粉所で保管している玄そばが「種」になる

今回の大雨被害は、私たち製粉所の役割について改めて考えさせられます。
丸岡町の生産者の手元には来年播くための種が不足する状況になりましたが、弊社にその生産者の玄そばが原料として一定数保管していました。

その原料を来年へつなぐ種として戻すことができる。
普段、私たちは生産者さんから玄そばを仕入れ、それを選別し、石臼で挽き、そば粉として全国のお客様へお届けしています。玄そばは「原料」だと思ってしまいがちですが、本来その一粒一粒は、土に播けば次の世代を生み出す「種」でもあります。

今年ほど、その当たり前のことを強く感じたことはありません。生産者さんから私たちが受け取った玄そばが、今度は製粉所から生産者さんへ戻り、来年の畑へつながっていく。

在来種を守るということは、品種名を残すことではなく、この一粒を途切れさせず次の年へ渡していくことなのだと思います。

福井市では、もう一度種を播く生産者も

一方、福井市の北部では、豪雨で一度壊滅的な被害を受けながら、もう一度畑を整地し、在来種を播き直す生産者さんたちがいます。でも、播き直せば解決するわけではありません。ソバは生育の早い作物ですが、福井では秋が深まるにつれて気温が下がり、日照時間も短くなっていきます。9月中旬ごろまでが、今シーズンの収穫を目指すうえで非常に厳しいタイムリミットになります。

前回のブログでも書きましたが、圃場が乾かなければ機械を入れることができません。
乾いたら整地する→ 種を播く→ 発芽を待つ・・
その間、再び雨が降れば、発芽したばかりの小さなソバは再び大きなダメージを受けます。

「やれるだけのことはやる」
そんな思いで、生産者さんたちはもう一度畑へ向かっています。

2026福井豪雨から10日―ソバ被害約1,400ha。「今年の収穫」だけではない、福井在来種を未来へつなぐ危機。
▲根から茎に向かって枯れるソバ

「今年の新そばが少ない」で終わる話ではありません

私たちカガセイフンにとって、今回の災害は単純な原料不足の問題ではありません。今年の収穫量が大幅に減れば、2026年産福井県産そば粉の供給にも影響が出ます。しかし、それ以上に心配なのは、今回をきっかけに生産者さんがソバづくりを続けられなくなる可能性があることです。

種を買う→ もう一度耕す→ 播種する→ 肥料や燃料を使う→ 機械を動かす・・
それでも収穫できる保証はありません。そして今年収入が得られなければ、来年の作付けそのものが難しくなる生産者さんも出てくるかもしれません。長い年月をかけて守られてきた在来種も、それを育てる人がいなくなれば残すことはできません。

だから今回の問題は、

「2026年産の新そばが少なくなる」という一年限りの話ではなく、福井のそば産地をこれからどう守っていくのかという問題だと感じています。

私たち製粉所にできること

生産者さんがいなければ、私たちはそば粉を挽くことができません。
そして蕎麦店さんも、福井県産在来種の蕎麦をお客様へ提供することができません。
畑、生産者、製粉所、蕎麦店、そして一杯の蕎麦を楽しみにしてくださるお客様。
すべてがつながって、福井のそば文化は成り立っています。

今回、弊社に残っていた玄そばが来年の「種」として、一つの生産者さんへ戻っていくことは、そのつながりを象徴しているように思います。私たちに豪雨を止めることはできません。枯れてしまったソバを元に戻すこともできません。それでも、生産者さんと情報を共有し、残っている種を確認し、収穫できた玄そばを大切に買い取り、適正に保管し、その価値をそば粉としてお客様へ伝えていくことはできます。

そして何より、今年だけではなく来年も、その次の年も、生産者さんに「ソバを作ろう」と思っていただける環境を一緒につくっていくこと。それが産地とともに歩んできた製粉所として、これから果たさなければならない役割だと思っています。

白い花が咲くことを、まだ諦めたくない

8月31日のブログを書いた時には、まだ水に沈んでいる畑がありました。
9月1日には、水が引いた後、枯れ始めたソバを見ました。
9月2日には、大野や勝山で何とか持ちこたえているソバを見つけ、小さな希望も感じました。

そして今、生産者さんたちは泥の残る畑を整え、もう一度種を播いています。今年、どれほどの福井県産そばを収穫できるのかは、まだ分かりません。これから播き直したソバが白い花を咲かせ、実を結んでくれるのかも分かりません。

ただ一つ確かなのは、福井の在来種は、自然に残ってきたのではなく、守る人がいたから残ってきたということです。

種をつないできた生産者さんがいる。
その玄そばを買い支えてきた人がいる。
粉にする製粉所が福井県内には多数あり、蕎麦にする職人がいて、それを美味しいと言ってくださるお客様がいる。

このつながりを、今回の豪雨で途切れさせてはいけない。
カガセイフンとして、今年の収穫だけを見るのではなく、その先の2027年、そしてさらにその先へ福井在来種をつないでいくために、私たちに何ができるのかを考え、行動していきたいと思います。

今後も各産地の生産者さんと連絡を取りながら、播き直したソバの生育状況、収穫の見通し、そして来年へつなぐ「種」の状況について、このブログでお伝えしていきます。

福井のそば作りは今、これまでにない危機に直面しています。
それでも、まだ終わったわけではありません。

もう一度、福井の畑一面に白いそばの花が咲くことを願わずにはいられません。

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