東京都目黒区鷹番3丁目、東急東横線・学芸大学駅のほど近くにある「CREPE by SIDER(クレープ バイ サイダー)」さん。フランス・ブルターニュ地方の郷土料理であるガレットと、りんごの醸造酒シードルを楽しめるお店です。2026年10月18日、こちらで特別なイベントが開催されました。
「そば好き、集まれ!〜蕎麦・Buckwheat・Sarrasin〜食べて、聞いて、もっと蕎麦が好きになる!福井の蕎麦粉と食材を楽しむ、一夜限りのガレットディナー」
今回、私がゲストとして参加させていただき、福井在来種の特徴や石臼製粉、日本とフランスの蕎麦文化についてお話ししました。イベントのテーマは「そば粉の可能性を知り、食べ比べを通して福井の風土と食文化を体感する」。
蕎麦を麺として食べる日本と、薄く焼いたガレットとして楽しむフランス。同じそば粉でも、製粉方法や熟成、調理方法によって異なる美味しさが生まれます。今回は、CREPE by SIDERの魅力とともに、当日のガレットセッションでお伝えした蕎麦の世界をご紹介します。
学芸大学で本格ガレットを楽しむ「CREPE by SIDER」
CREPE by SIDERの魅力は、そば粉を使ったガレットを、食事として気軽に楽しめることです。
ガレットは、フランス北西部・ブルターニュ地方で親しまれてきた郷土料理。そば粉を水などで溶いた生地を薄く広げ、香ばしく焼き上げ、卵やチーズ、ハム、野菜などを組み合わせます。小麦粉のクレープとは異なり、そば粉ならではの穀物の香りと、焼くことで生まれる香ばしさが特徴です。
焼き上がった生地の縁はパリッと軽やか。中心部分は具材の水分を受けてしっとりとした食感になり、一枚の中でも異なる表情を楽しめます。定番の「ガレット・コンプレット」は、卵、ハム、チーズを合わせたブルターニュらしい一皿。卵のまろやかさ、チーズのコク、ハムの塩味が重なり、そば粉の香ばしさを引き立てます。また、季節の野菜を花束のように盛り付けた「ブーケガレット」は、見た目にも華やか。野菜の瑞々しさと生地の香ばしさが調和し、食事としての満足感を楽しめる一品です。ガレットを味わう際には、具材だけでなく、生地そのものの香りと食感にも注目してみてください。それだけで、ガレットの印象が大きく変わるはずです。
一夜限りのイベント「そば好き、集まれ!」
10月18日のイベントでは、福井県産在来種そば粉の魅力を、フランスのガレット文化を通して紹介しました。単に蕎麦について講義するのではなく、料理を味わいながら参加者と対話し、そば粉の違いを体験していただくことを大切にした企画です。
テーマとなったのは、福井在来種の特徴、石臼製粉による風味の違い、熟成と挽きたての比較、そして福井の食材とガレットの相性。日本語では「蕎麦」、英語では「Buckwheat」、フランス語では「Sarrasin」。呼び方も食べ方も違いますが、原料は同じ蕎麦です。その共通点を入り口に、蕎麦という食材の新たな可能性を探りました。
福井県は「在来種王国」。加賀健太郎が語った蕎麦の魅力
まずお話ししたのは、蕎麦の基本的な知識について。
蕎麦は名前に「麦」が入っていますが、小麦や大麦とは異なるタデ科の植物です。種まきから収穫までの期間が比較的短く、約75日で収穫できることもあります。日本では古くから山間部などで栽培され、地域の食文化を支えてきました。中でも福井県は、各地に在来種が受け継がれている「在来種王国」です。
福井県内では地域ごとに異なる在来種を栽培しており、同じ福井県産でも栽培環境や気候によって香りや甘み、収量などに違いが生まれます。改良品種は、収量や栽培の安定性などを目的に育成されてきたもの。一方、在来種は粒の大きさや性質にばらつきがあり、栽培が難しい反面、その土地ならではの個性を持っています。効率や収量だけでは測れない、土地固有の風味こそが在来種の魅力です。
イベントでは江戸東京野菜などの伝統野菜にも話題を広げ、地域で受け継がれてきた種を守ることの大切さについても意見を交わしました。
白いそば粉と黒いそば粉。石臼挽きで変わる香りと食感
次に紹介したのが、製粉方法による違いです。
蕎麦の実は、収穫、乾燥、脱皮、製粉といった工程を経て、そば粉になります。外側の黒い殻を取り除いた実を「丸抜き」と呼びます。丸抜きの中心部分を主に使用した粉は比較的白く、上品な甘みや滑らかな口当たりが特徴です。
一方、甘皮などの外層部分まで挽き込んだ「挽きぐるみ」は、色が濃く、穀物らしい香りや風味が強くなる傾向があります。石臼挽きでは、細かな粉と粗い粒子が混在することで、複雑な香りや食感が生まれます。反対に、機械製粉には粒度や品質を均一に仕上げやすい利点があります。どちらが優れているということではなく、料理に合わせた粉づくりが重要なのです。日本そばでは、麺のつながりや喉越し、香りのバランスが求められますが、ガレットでは、生地の伸びや焼き上がりの食感、香ばしさが大切になります。同じ福井在来種でも、挽き方を変えることで、まったく異なる美味しさを引き出せるのです。
最大の見どころは「熟成そば粉」と「挽きたてそば粉」の食べ比べ
今回のガレットセッションで、特に中心となったのが熟成そば粉と挽きたてそば粉の比較です。
日本の手打ちそばでは「挽きたて・打ちたて・茹でたて」という言葉があるように、鮮度を大切にする文化があります。挽きたてのそば粉には、瑞々しく繊細な香りがあり、素材本来の風味を楽しめます。
一方、ガレットでは、原料やそば粉を適切に熟成させることで、焼いたときの香ばしさや味わいの深さを引き出す考え方があります。今回の比較では、熟成そば粉を使ったガレットと、挽きたての丸抜きを粗く砕いて焼いたものを用意。蜂蜜やレモン、キャラメルなどを控えめに組み合わせ、そば粉そのものの風味を感じられるように工夫しました。
挽きたての魅力は、素材の瑞々しさと繊細な香り。
熟成したそば粉の魅力は、焼くことで引き出される香ばしさと味わいの奥行き。重要なのは、どちらが美味しいかを決めることではありません。「挽きたての香りを楽しむ日本そば」と「焼き上げた香ばしさを楽しむガレット」。その違いを実際に食べ比べることで、そば粉の可能性を感じていただくことが今回の目的でした。
福井の食材とガレットの出会い。へしこ、九頭竜舞茸、越のルビー
今回のイベントでは、福井の食文化をガレットという料理を通して伝えることも大切なテーマでした。ガレットチップスをアミューズとして楽しみ、福井県産野菜や伝統食材を組み合わせた料理を通して、蕎麦の新しい食べ方を提案しました。
福井の食材として注目したのは、麻王伝兵衛さんが作る「越のルビー」、九頭竜舞茸、そして「へしこ」。へしこは、魚を塩漬けにした後、米ぬかに漬け込んで熟成させる福井の伝統的な発酵食品です。濃厚な旨味と独特の塩味を持ち、香ばしいガレット生地との組み合わせが期待できます。
九頭竜舞茸は、豊かな香りとしっかりした食感が魅力。
そば粉の穀物らしい香ばしさと、舞茸の旨味は相性の良い組み合わせです。また、甘みと酸味のバランスが特徴のミディトマト「越のルビー」は、ガレットに彩りと爽やかさを添える食材です。福井の珍味メーカー「天たつ」や生産者、そば粉を使ったスイーツ店との連携も話題となりました。単に福井の食材を並べるのではなく、福井の風土を一枚のガレットに表現する。そんな発想が、今回のイベントの大きな魅力でした。
ガレットとシードル。福井とブルターニュの食文化に共通するもの
フランス・ブルターニュ地方では、そば粉のガレットとりんごを発酵させたシードルが親しまれています。ブルターニュでは、小麦の栽培に適さない土地でも育つ蕎麦が食文化として発展しました。一方、福井県では、地域ごとに受け継がれた在来種が栽培され、越前おろしそばという独自の食文化が育まれてきました。
日本では、蕎麦の香りや甘み、喉越しを楽しむ。
フランスでは、焼き上げたそば粉の香ばしさと、食材との組み合わせを楽しむ。食べ方は違っても、共通しているのは、その土地で育った蕎麦を大切にしていることです。また、蕎麦の産地とりんごなどの果樹産地には、昼夜の寒暖差や土壌条件など、共通する環境が見られる場合があります。ガレットとシードルという組み合わせも、土地の風土と食文化のつながりを感じさせてくれます。
蕎麦は麺だけではない。そば粉の新しい可能性
今回のイベントでは、家庭でのそば粉の活用についても意見交換しました。
そば粉は、麺やガレットだけのものではありません。そばがきや焼き菓子、丸抜きをお米と一緒に炊く料理など、さまざまな楽しみ方があります。
そば粉には食物繊維やルチンなどの成分が含まれ、ガレットやそばがきのような調理方法にも、それぞれの特徴があります。大切なのは、特別な食材として難しく考えるのではなく、日々の食卓に取り入れられる可能性を知ることです。今回のように、料理人と製粉所、生産者、食品メーカー、そして食べる人がつながることで、そば粉の新しい使い方が生まれていくのだと思います。
福井在来種を未来へ。ガレットから広がる蕎麦の世界
2026年の福井県は、8月30日の記録的豪雨によって、多くのそば産地が大きな被害を受けました。
今年の収穫だけでなく、来年へつなぐ種の確保にも不安が残る状況です。だからこそ、福井在来種の魅力を知っていただき、さまざまな料理で楽しんでもらうことには、大きな意味があります。
日本そばとしてだけでなく、ガレットやスイーツなど、新しい形で福井県産そば粉の需要が広がれば、生産者を支え、産地を守ることにもつながります。今回のイベントで改めて感じたのは、蕎麦は「麺」だけではなく、「粉・土地・文化」から見ることで、もっと奥深く、もっと面白くなるということ。
学芸大学のCREPE by SIDERで開催された一夜限りのガレットディナーは、日本とフランスの蕎麦文化をつなぎ、福井在来種の新しい可能性を考える貴重な機会となりました。カガセイフンとしても、これからも生産者や料理人と連携し、福井在来種の魅力を全国へ伝えていきたいと思います。
次にガレットを食べるときには、ぜひ生地の香りや食感、そば粉の産地にも目を向けてみてください。一枚のガレットから、これまで知らなかった蕎麦の世界が広がっていくはずです。
[CREPE by SIDER(クレープ バイ サイダー)]
〒152-0004 東京都目黒区鷹番3丁目4−25 GAKUDAI PARK STREET
電話:070-8582-2306
営業時間:火・水・木 11:00~18:00/金・土 11:00~22:00
定休日:毎週月曜日











