同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。

先日、カガセイフンにて「そば打ち研鑽会」を開催しました。
今回のテーマは、「同じそば粉を使っても、打ち手によって蕎麦の味はどこまで変わるのか」。

普段なかなか間近で見ることのできないプロの蕎麦職人のそば打ちと、経験豊富なそば打ち愛好家のそば打ちを見比べ、さらにそれぞれが打った蕎麦を実際に食べ比べながら、技術や考え方の違いを学ぼうという試みです。

「蕎麦の打ち比べをしてみませんか?」から始まった研鑽会

今回の研鑽会は、越前陶芸村内にある「十割蕎麦 だいこん舎」の店主・南さんから、「蕎麦の打ち比べ会をしてみませんか?」とお誘いいただいたことがきっかけでした。例えば、同じ玄そばでも挽き方を変えると、香りや食感はどう変わるのか。同じそば粉でも、加水の回数や水回しの方法を変えれば、仕上がりにどのような違いが生まれるのか。そして、まったく同じそば粉を使い、打ち手だけを変えた場合、味や香り、食感はどこまで変わるのか。

蕎麦に携わっていると、こうした疑問が次々と出てきます。それなら実際に同じ条件で打ち、みんなで食べ比べて確かめてみよう。そんな純粋な探究心から今回の研鑽会が始まりました。

同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。

プロの蕎麦職人と愛好家がカガセイフンに集結

参加していただいたのは、福井市を中心に活動している「NPO法人 越前そば連合」のメンバー数名。そして、越前陶芸村「十割蕎麦 だいこん舎」店主の南さん、福井市の「蕎麦やすたけ」店主の北谷さん、「石うす挽き手うちそば処きょうや」店主の宮本さん、あわら市吉崎御坊の「蕎麦鹿しま」店主の鹿島さんです。

普段はそれぞれ違う場所、違う環境で蕎麦を打っている皆さんが、一つの場所に集まり、お互いのそば打ちを間近で見る機会はそう多くありません。愛好家の皆さんにとっては、普段お店でいただいている蕎麦がどのような手の動きや判断によって生まれているのかを見る機会。

一方、プロの職人にとっても、基本を大切にしながら丁寧に打ち上げる愛好家の技術や考え方に触れる機会となりました。どちらかが一方的に教えるのではなく、それぞれの経験や技術を持ち寄って学び合う。それが今回の「研鑽会」の大きな目的です。

基本を積み重ねる愛好家、経験から判断するプロ

実際にそば打ちが始まると、それぞれの打ち方の違いが見えてきます。
そば打ち愛好家の皆さんは、水回し、練り、延し、切りという基本の工程を大切にしながら、一つひとつ確実に進めていきます。粉や生地の状態を確認しながら丁寧に仕上げていく姿からは、長年そば打ちに向き合い、基本を磨いてきた技術の高さが感じられました。

対して、プロの蕎麦職人は、日々の営業で多くの蕎麦を打ってきた経験があります。
その日のそば粉の状態、気温や湿度などを感じ取り、「今日はどれくらいの水が必要なのか」「どの程度まで水を回せばよいのか」を手の感覚で判断していきます。愛好家の方が1kgのそば粉を40分ほどかけて丁寧に仕上げるのに対し、プロは通常2kgほどのそば粉を約20分で打ち上げるそうです。

これは単純な技術の優劣ではありません。基本を大切に精度を高めていく愛好家と、毎日の営業の中で品質と効率を両立させてきたプロ。それぞれの目的や経験の違いが、そば打ちにも表れています。

同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。
▲北谷さん(蕎麦やすたけ店主)

わずか2分足らず。プロの「水回し」

中でも印象的だったのが「水回し」です。
愛好家の皆さんは、そば粉の変化を確認しながら5分ほどかけて丁寧に水を回していきます。
一方、プロの中には2分足らずで水回しをほぼ終えていました。

もちろん、ただ速いわけではありません。
短時間でも、必要なところに必要な水が入り、粉全体に水分が行き渡っています。そば粉に触れた瞬間から状態を捉え、加水量や水の回り具合を判断していく。毎日の仕事の中で積み重ねてきた経験が、手の動きに表れているように感じました。

同時に、愛好家の皆さんが粉の変化を一つひとつ確認しながら進める水回しを見ると、基本動作を丁寧に行うことの重要性にも改めて気づかされます。方法や時間は違っても、「このそば粉をどうすれば美味しい蕎麦にできるか」と粉に向き合っていることは同じです。

同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。
▲南さん(だいこん舎店主)

今では珍しい「丸延し・一本棒」

今回、特に注目を集めたのが「だいこん舎」南さんのそば打ちでした。
南さんが披露してくださったのは、伝統的な「丸延し・一本棒」の技法です。

現在は複数の麺棒を使って生地を四角く延していく打ち方も広く見られますが、南さんは一本の長い麺棒を使い、生地を回しながら丸く延していきます。一本の麺棒を巧みに操り、力を加える位置を変えながら、生地全体の厚みを整えていく。一見すると素朴な方法ですが、均一な厚みに仕上げるためには、生地の状態を把握する感覚と高い技術が必要です。今ではなかなか目にする機会のない昔ながらのそば打ちを、これほど近くで見られたことも、今回の研鑽会ならではの貴重な経験となりました。

同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。
▲二人の職人による正確無比な圧巻の切り

同じそば粉なのに、食べてみると違う

そして今回、最も興味深かったのが食べ比べです。
条件をできるだけ揃えるため、今回は打ち手全員が同じそば粉を使いました。
原料も製粉も水も同じ。違うのは打ち手と使用する道具です。

愛好家の皆さんが打った蕎麦は、麺肌がなめらかで口当たりがよく、喉越しも良好。一つひとつの工程を大切にして仕上げたことが伝わってくる、美味しい蕎麦でした。一方、プロが打った蕎麦には、香りや甘み、コシ、歯切れなど、それぞれの職人が狙った個性や想いが感じられました。特に印象的だったのは、同じそば粉なのに香りの立ち方や甘みの感じ方、噛んだ時の食感まで変わって感じられたことです。

もちろん、どちらが上、下という話ではなく、愛好家の蕎麦には丁寧に積み重ねた仕事から生まれる美味しさがあり、プロの蕎麦には日々の経験から磨かれた判断や技術による美味しさがある。同じそば粉だからこそ、それぞれの打ち手の特徴がより分かりやすく表れたのだと思います。

「同じ粉なのに、ここまで違う蕎麦になるのか」。
製粉する私たちにとっても、とても興味深い結果となりました。

同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。
▲丸延し一本棒で打った蕎麦は、甘くモチモチ感がたまらない

美味しい蕎麦は「そば粉」だけでは完成しない

カガセイフンでは、原料となる玄そばの品質を見極め、それぞれの特徴を引き出す製粉を大切にしています。しかし、今回の研鑽会で改めて感じたのは、私たちが挽いたそば粉は、まだ「蕎麦になる途中」だということです。

そこから打ち手が粉の状態を感じ取り、加水量を判断し、水を回し、練り、延し、切る。
さらに茹で、水で締めて、ようやく一枚の蕎麦になります。

同じそば粉でも、加水、水回し、練り、延しといった一つひとつの判断によって、香りや甘み、食感の表れ方が変わってくる。製粉する側が「この粉はこういう粉だ」と考えるだけではなく、実際に打つ人がどう感じ、どう扱い、どのような蕎麦に仕上げるのかを知ることも、より良いそば粉づくりには大切だと感じました。

食べ比べの後は、尽きることのない「蕎麦談義」

蕎麦を食べ比べながら、後半は自然と蕎麦談義が始まりました。
福井の蕎麦好きは、一度蕎麦の話を始めるとなかなか止まりません。

玄そばの栽培や品質、製粉方法、加水やそば打ちの技術、出汁の取り方、そして今年の福井県産そばの生育状況まで、話題は次々と広がっていきます。

こうなると、プロも愛好家も関係ありません。

「自分はこうしている」「この粉ならこう打つ」「こうすると味が変わる」。
それぞれが持っている経験や考え方を共有し、活発な意見交換が行われました。こうした交流こそが、今回の研鑽会で得られた大きな成果の一つだったように思います。

同じそば粉でも打ち手で味が変わる?プロと愛好家の「そば打ち研鑽会」を開催しました。

越前そば文化を、みんなで高めていく

福井には、在来種の玄そばを大切に育てる生産者がいます。
それをそば粉に仕上げる製粉所があり、美味しい一杯に仕上げる蕎麦職人がいます。そして、自らそば打ちを楽しみ、技術を磨き続ける多くの愛好家がいます。

立場や打ち方は違っても、「もっと美味しい蕎麦を打ちたい」「福井の蕎麦をもっと良くしたい」という思いは同じです。今回のように、プロ、愛好家、製粉所という垣根を越えて集まり、実際に打って、食べて、意見を交わす。こうした機会を積み重ねていくことが、福井の蕎麦全体の品質を高め、越前そば文化をさらに豊かにしていくことにつながるのではないでしょうか。

次回は、福井県内のプロの蕎麦職人を対象としたそば打ち研鑽会も予定しています。
カガセイフンも、ただそば粉を製造して販売するだけではなく、生産者、蕎麦職人、そば打ち愛好家など、蕎麦に関わる人たちが集まり、互いに学び、技術を高め合える場所をつくっていきたいと思います。

「福井の蕎麦を、もっと美味しく、もっと面白く」

今回の研鑽会を、越前そば文化を次へつないでいく取り組みの一つにしていきたいと思います。

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