東十条「一東菴(いっとうあん)」は、全国の在来種そばを“産地ごとに食べ比べる”蕎麦好きなら訪れたい名店。

東京都北区東十条。
JR東十条駅南口からほど近い場所に、蕎麦好きなら一度は訪れてみたい店があります。

「一東菴(いっとうあん)」さん。
開業以来、全国の蕎麦通から支持されてきた一軒で、僕も前々から足を運んでみたいと思っていたのですが、初回の時は満席、2回目は休業日、3回目は幼かった子供が体調を壊し断念。そしてこの度、かれこれ10年越しにようやく伺うご縁に恵まれました。

東十条「一東菴(いっとうあん)」は、全国の在来種そばを“産地ごとに食べ比べる”蕎麦好きなら訪れたい名店。

一東菴さんの最大の魅力は、単に「美味しい手打ち蕎麦が食べられる」というだけではなく、全国各地から玄そばを取り寄せ、それぞれの産地や品種が持つ個性を引き出し、一枚の蕎麦として食べ比べの体験ができること。

ワインや日本酒で産地や品種による違いを楽しむように、蕎麦にも土地ごとの香り、甘み、食感、色、余韻がある。一東菴さんは、そんな「蕎麦は農産物である」という当たり前でありながら忘れがちな魅力を、食べ手に体験させて愉しませてくれる蕎麦店です。

東十条「一東菴(いっとうあん)」は、全国の在来種そばを“産地ごとに食べ比べる”蕎麦好きなら訪れたい名店。

一東菴は「蕎麦前」から愉しみたい

一東菴さんでまず、体験したいのが蕎麦前。
最初からいきなりお蕎麦を注文して食べるのももちろん最高です!
でも、もし時間が許すなら、酒を愉しみながら季節の料理を少々。そばがきを挟んで最後に蕎麦。

そんな流れで贅沢に時間を使ってゆっくりと過ごしたいお店です。
一東菴さんは日本酒の品揃えも多く、おまかせでお願いすれば、お料理やその時食べているお蕎麦に合わせたペアリングを提案してくれます。

東十条「一東菴(いっとうあん)」は、全国の在来種そばを“産地ごとに食べ比べる”蕎麦好きなら訪れたい名店。

見逃せない「そばがき」

次に注目してほしいのがそばがき。
粗碾き・手碾き・微粉など、粉の状態を変えたそばがきが味わえます。
中でも手碾きはざらっとした舌触りと粘り、微粉は滑らかでクリーミーな食感が特徴です。

これはそば粉屋から見ても興味深く、原料が同じ蕎麦でも「どう挽くか」で食感が変わります。粗く挽けば粒を噛むような力強さが現れ、細かく挽けば滑らかな舌触りになる。蕎麦切りでは麺線や喉越しに意識が向きますが、そばがきは「そば粉そのもの」を味わいやすい料理なので、一東菴さんの世界を深く知るには、せいろだけでなく、そばがきも味わっていただくとおもしろいです。

一東菴の真骨頂「産地せいろ食べ比べ」

一東菴さんでぜひ体験してほしいのがコースでも味わえる「産地せいろ」食べ比べ。
その名の通り、全国の異なる産地や品種の蕎麦を順番に味わう食べ比べです。その日によって蕎麦の産地や仕立てが変わり、北海道、新潟、福井、長野、埼玉、千葉、茨城など全国各地の玄そばが提供されています。「全部、同じ蕎麦でしょ?」と思って食べ始めると、驚かされます。

色が違う。
香りが違う。
舌触りが違う。
噛んだときの弾力が違う。
甘みの現れ方も、飲み込んだ後に残る余韻も違う。

一枚だけでは気づきにくかった蕎麦の個性が、2枚、3枚と食べ比べていくとはっきりと見えてきます。

蕎麦を「美味しい」だけでは終わらせない

個人的に、一東菴さんのおもしろさはここにあると思います。
蕎麦を食べ歩いていると、「香りがいい」、「コシがある」、「喉越しがいい」という表現だけで終わってしまいがちですが、産地ごとに同時に食べ比べていくと、

「僕はザラッとしたガツン系の蕎麦がやっぱり好きだ」
「でも、しなやかで上品な穀物味は魅力的だなぁ」
「のどを通った後に感じる鼻から抜ける甘やかな香りがすごく心地いい」

と、自分自身の“蕎麦の好み”まで見えてきて、これは蕎麦好きにとって、とても贅沢な体験です。

全国の玄そばと向き合う「自家製粉」

一東菴さんでは、全国各地の玄そばを扱い、店主の吉川さんの目利きで状態を見ながら丁寧に自家製粉して蕎麦へ仕立てていますが、大切なのは「良い玄そばを仕入れれば、美味しい蕎麦になる」わけではないということ。

同じ玄そばでも、どの程度まで殻を取り除くのか。
石臼でどの程度の粒度に挽くのか。
どこまで外層部分を挽き込むのか。
どのような蕎麦にするためにどう挽くのか。
その粉にどれほど水を与え、どう打つのか。

製粉から蕎麦打ちまでの設計によって、出来上がる蕎麦の表情は大きく変わります。一東菴さんの魅力は、産地の違いだけでなく、その玄そばの個性を最大限引き出す一枚に仕立てているところにあると思います。

東十条「一東菴(いっとうあん)」は、全国の在来種そばを“産地ごとに食べ比べる”蕎麦好きなら訪れたい名店。

一枚目は、まず何もつけずに

一東菴さん産地せいろ食べ比べをいただくなら、個人的には何もつけずにお蕎麦だけを食べてみてほしいです。
僕のいつもの食べ方をご紹介しますと、

蕎麦を箸で持ち上げ、そのまま口へ。
すすった時の香りを感じる。
次に噛んで食感を感じる。
鼻へ抜ける香りとは別に、穀物としての甘みや旨味が出てきます。

次に塩をほんの少し蕎麦につけて同じようにいただく。
甘みや旨味がより一層感じられます。

つゆは蕎麦につけず、蕎麦を食べ進める合間に少しだけ直接、口に含む。
わさびやねぎなどの薬味は口直し程度にそのまま食べる(食べないことが多い)。

こうして食べ進めると、一枚の蕎麦の中にもいくつもの表情があることに気づきます。

一枚目と二枚目はどう違うか。
二枚目と三枚目では香りの質や穀物味がどう違うか。

そんなことを考えながら産地ごとに味わうことができるのも一東菴さんならではの愉しみ方です。

「土地を食べる」という蕎麦の愉しみ

一東菴さんを訪れると、改めて蕎麦が農産物であることを実感します。
たとえば、福井県南越前町産(今庄在来)と新潟県妙高市産(関山在来)。
ナッツに似た濃厚な穀物味と香ばしい香りを持つ今庄在来に対し、大豆のような舌にまとわりつく甘みときな粉のような香りを感じた関山在来。

どちらが美味しいとか美味しくなとかではなく、同じ「そば」でも育った土地も気候が違います。さらに在来種は、長年その地域で受け継がれてきた背景があり、その年その年で作柄が変わる。一度の食事で、それぞれの土地を味わう。という感覚こそ、一東菴さんの魅力の一つです。

東十条「一東菴(いっとうあん)」は、全国の在来種そばを“産地ごとに食べ比べる”蕎麦好きなら訪れたい名店。

産地を覚えて帰ると、蕎麦食べ歩きがもっと面白くなる

せっかく一東菴さんを訪れるなら、その日に食べた蕎麦の産地を覚えて帰ることをおすすめします。

「今日は福井が好きだった」
「千葉の香りが印象に残った」
「埼玉の夏そばの食感がおもしろかった」

そうした経験が蓄積していくと、次に別の蕎麦店へ行った時、

「この店はどこの玄そばでどんな挽き方だろう?」

と、原料や製粉にも興味が向くようになります。
すると蕎麦の食べ歩きが、

店を巡る楽しみから、産地・品種・製粉・打ち方を巡る楽しみへと変わっていく。
一東菴さんは、そんな蕎麦の奥深い世界への入口にもなる店だと思います。

「全国の蕎麦を食べ比べ、“土地の個性”を味わう蕎麦店。」

一東菴さんの魅力は、強烈な個性を持った一枚の蕎麦だけではなく、全国のそば産地へ足を運んで玄そばを集め、時に収穫も行い、それぞれの特徴を考えながら挽き、打ち、一度の食事の中で違いを体験させてくれる。そして、そばがき、日本酒、蕎麦前まで含めてゆっくり楽しむことができる。

「蕎麦とは何だろう?」

そんなことを考えながら食べるのが楽しい店です。
一枚の蕎麦を「美味しい」で終わらせず、産地を知り、挽き方を感じ、違いを食べ比べる。東京都北区東十条で本格的な手打ち蕎麦を探している方はもちろん、全国の在来種や産地による蕎麦の違いを知りたい方にも、一東菴さんは非常に興味深い一軒だと思います。


[一東菴(いっとうあん)]
〒114-0001 東京都北区東十条2丁目16-10
電話:03-6903-3833
営業時間:火・水(11:45~14:00)、木・金:土(11:45~14:00/18:00~20:00)
定休日:日・月

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