十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。

先日、福井県内で自家製粉されていらっしゃる人気そば店の店主様から以下のようなご相談を頂戴いたしました。これまでの経験と知識を生かして、僕なりの解釈でお伝えした内容を共有したいと思います。


長年、蕎麦に携わっていますが、今でも答えの出ないことがたくさんあります。
ここ2年ほど特に気になっているのが、蕎麦を茹でる際に麺同士がくっついてしまい、一部が生茹でのような状態になることです。毎回ではないものの、日に数回発生することがあり、その原因がよく分かりません。

「打ち粉の問題なのか、蕎麦粉の性質なのか、それとも加水率によるものなのか…」

釜に投入した瞬間に麺がスッとほぐれず、一部分が固まってしまうことがあります。新しい湯を使った場合でも同様の現象が起こるため、何が影響しているのか色々と試しているところです。また、いわゆる「粘りのある蕎麦粉」というものがありますよね。私の感覚では、そのような傾向のある玄蕎麦を使用した時に、この現象が起きやすいような気がしています。

「そもそも蕎麦粉の粘りは何によって生まれるのでしょうか…」

例えば、その玄蕎麦はやや乾燥気味で、普段より加水率を高めにしなければならないのですが、そのことが粘りや麺の付着に関係しているのでしょうか。さらに、打ち粉についても疑問があります。打ち粉の違いが蕎麦の味にどの程度影響するのか、正直なところまだよく分かっていません。また、同じ蕎麦粉を使った場合でも、打つ人が違えばどれほど味に差が出るのでしょうか。「同じ粉なのに、この人が打つと明らかに美味しい」と感じるような職人さんはいらっしゃいますか。


十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。
Q1. 茹でる時に麺同士がくっついて生茹でになる原因は?

僕も粉屋として長年、蕎麦に携わっていますが、この現象を単一の原因で説明することは極めて難しいと感じています。
考えられる要因としては、

  • 原料そのものの特性
  • 石臼と原料の相性
  • 石臼の目立て状態
  • 挽き方や粒度
  • 加水率
  • 打ち粉の状態
  • その日の気温や湿度
  • 茹で投入時の量やほぐれ方

などが複雑に絡み合っています。
特に福井で一般的に使用されている「在来品種」では、単純な原料の含水量よりも、

  • 玄そばの熟度
  • デンプンの状態
  • タンパク質とのバランス
  • 小粒・未熟粒の割合
  • 生育期の天候

などが影響しているように感じます。
同じ産地・同じ生産者の原料でも、「今年の今、使っているこのロットは異常に粘る」ということは珍しくありません。また、乾燥気味の原料は加水率を上げる必要がありますが、その結果、麺帯表面に余分な水分が残りやすくなり、茹で始めに麺同士が付着しやすくなる可能性もあります。

ただ、不思議なのは、「粘る原料=茹ででくっつきやすい」ではないことです。
製粉時に「粘りが強い原料だな」と感じても、打った蕎麦では問題が出ないこともありますし、逆のケースもあります。案外、原料以上にその日の湿度や作業環境の差が影響していることもあります。


十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。
Q2. 打ち粉はどれくらい影響するのか?

個人的には打ち粉の影響は意外に大きいと考えています。
特に重要なのは粒度で、いつもと同じ製法・設定で製粉していても、

  • 気温
  • 湿度
  • 原料の状態

によって微妙に粒度が変わります。
粒度が変わると剥離性も変わり、

  • 麺同士の離れ方
  • 茹で投入時のほぐれ方

に影響します。
また、製粉した日の湿度が高い場合は、打ち粉自体も湿気を含みやすく、通常より剥離性が落ちることがあります。実際に、打ち粉を数種類以上ブレンドしたら調子が良くなった、安定した、という話は珍しくありません。

打ち粉は「細かいほど良い」とか、逆に「粗いほどいい」とは言い切れません。
お店や打ち手のその日のコンディション、蕎麦の状態によって、

  • 仕上がり
  • 茹で方
  • 切り幅

に違いが出るからです。


十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。
Q3. 同じ蕎麦粉でも打ち手によって味は変わるのか?

これは間違いなく変わります。
同じロットの粉を使用している店舗同士でも、「本当に同じ粉ですか?」と言われることがあるほどです。

この違いが出るのは、

  • 加水率
  • 水回し
  • 延し
  • 切り
  • 茹で
  • 冷却(〆)

すべての工程が人によって異なるからです。
上手な職人であればあるほど、「その日の粉の状態」を読む能力に長けていますが、それでも毎日、一定とはいきません。

同じ粉でも、

  • 気温
  • 湿度
  • 季節

に応じて加水率や打ち方を日々調整し、変えているからこそ、いつもと同じ美味しいお蕎麦に打ち上げることができますし、「美味しい蕎麦は粉だけでは決まらない」と言えるのだと思います。


十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。
Q4. 蕎麦は主食なのか、嗜好品なのか?

蕎麦は主食でありながら、非常に嗜好性の高い食品でもあると思っています。
例えば、お米は近年、全国で色々な特徴を持つブランド米が販売されており、「お腹を満たす」ことの他に産地や香り、食感の違いなども楽しめるようになってきました。

蕎麦の場合は、

  • 香り
  • 甘み
  • 食感
  • 産地
  • 品種
  • 挽き方
  • 打ち方

まで含めて楽しむ方が多いです。
そのため僕は、蕎麦は主食と嗜好品の中間にある食べ物になってきたと考えています。
だからこそ、「正解」がありません。人によって美味しいと感じる蕎麦が違うと思います。


十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。
Q5. 十割蕎麦の加水率はどれくらいが適正か?

弊社の最も細かい粉でも、十割だと〇%という決まりはありません。
加水率は、

  • 産地
  • 年産
  • 原料の熟度
  • 含水率
  • 甘皮割合
  • 微粉の割合
  • 挽き方
  • 製粉やそば打ちする環境(気温・湿度)

によって変わります。
福井在来種では、十割で45〜50%程度を一つの目安として説明しています。


Q6. 粉の細かさと加水率の関係は?

そば粉の粒度は大きな要素ですが、それだけではありません。

一般的には、

  • 微粉が多い
    → 水を抱え込みやすい
    → 加水率は低くなる

傾向があります。
逆に、

  • 粗粉が多い
    → 水が内部まで浸透する時間が必要
    → 加水率が上がる

ことがあります。
ただ、同じ粒度でも原料によって2〜3%程度違うことは珍しくありません。


十割蕎麦の加水率は何%が正解?熟練のそば職人が悩む「麺がくっつく原因」を製粉屋が考察。
Q7. 加水率の正解はあるのか?

一般的には十割で45〜50%程度とお伝えしていますが、プロだと40%前後で打つという方もいますし、梅雨時には39%以下という話も聞きます。手打ちとしては驚く数字ですが、実際に存在しますので、結局のところ、正解の加水率は存在しないということになってしまいます。

同じ粉でも、

  • 打ち手
  • 季節
  • 店の方向性

によって変わります。
ただ一つ言えるのは、「加水量が少ないほど難しくなる反面、蕎麦本来の香りや味は際立ちやすい」ということです。長年、蕎麦を打っていても新しい疑問が出てくる。そして、その答えが一つではない。それこそが蕎麦の面白さであり、多くの人が夢中になる理由なのだと思います。

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