近年、全国各地で栽培されなくなったソバの在来種を復活させる働きや在来種で町おこしを行う地域が増えています。
県全体で在来種を栽培している「在来種王国」の福井県としては各地でそういった取り組みがなされていることを非常に嬉しく思いますし、将来的に47都道府県の気候や土壌が育てた在来種のソバが味わえるようになるようになれば素晴らしい事だと期待が高まります。今回はそんな在来復活について感じていることを織り交ぜながら、在来種についてざっくりまとめてみました。
在来品種とは?
そもそも在来種というのは、動植物の品種のうち、その地方の風土や土壌に適し長年栽培または飼育されているものを指します。
福井県では昔から県全体で「福井在来種」のソバを栽培しております。北海道で主に栽培されている「キタワセ」、長野の「信濃一号」、山形の「でわかおり」などと言った名前や名称はなく、福井県内の気候風土が福井在来種を育てて、現在では「大野在来種」「丸岡在来種」「永平寺在来種」「今庄在来種」などの地名が入った在来になっています。
在来品種を栽培する難しさと在来種がこの先、生き残るためには?
在来種は小粒で濃厚な味わいと香りが特徴なのですが、非常に天候に左右されやすく害虫の被害にも遭いやすいという欠点があります。また、手塩にかけて育てても結実するかどうかは気温や虫の働きによるところが大きく、仮に結実しても収穫までの天候が悪いと実落ちしてしまうというギャンブルに近い運次第の作物なので、播種したら播種した分だけ収穫量が見込めるということはなく、豊作だったとしても他品種に比べて収量は大きくありません。品質も栽培中の天候によってムラが生じやすく畑の場所や環境によって異なります。
そして一番の難しいところは他品種と交配してしまうと在来は負けてしまうということです。
在来種と品種改良したソバでは改良したソバの方が当然、種として強いので、例えば虫が周回する範囲内に両者の圃場がある場合、両者が交配してしまい在来種は改良された強い品種に染まってしまう傾向にあります。虫の周回範囲は5㎞~10㎞以上とも言われているので、少なくとも在来種と他品種を同じ産地で栽培するなら最低でも10㎞以上は離す必要がありますし、できれば山を挟んで隔離状態で栽培しないと純粋な在来が育たないとも言えます。
ここに在来種を栽培し続けていく栽培面での難しさと収入面での問題があり、せっかく復活させた在来種でも交配によって数年後には元に戻ってしまう傾向にあるのです。とても残念なことです。在来種を栽培するには、在来の特徴をよく理解し手間暇惜しまず栽培に注力することはもちろん、結果として不作になろうともそれを覚悟の上で取り組める根気強さと情熱、覚悟、意識の高さが大切だと思います。
品種改良したソバの良さ
味や香りは在来種ほどではありませんが、天候に左右されない強い品種を作り上げることによってどこでも育てやすく品質もほど一定に仕上げることが出来ます。また実を肥大化させて歩留り(1粒から採れるそば粉の量)を良くしたり、または微量の薬を使用して害虫を駆除することによって収穫量を確保できています。そのおかげで今日の日本のそば店は不作の年であっても安定的なそば粉の供給を受けています。福井が在来種を作り続けていられるのは、福井が凶作の年でも北海道や信州・山形など有名な産地が需要と供給のバランスを支えているからだと思います。
在来そば復活の動き
在来種を復活させようとする動きの根底には、この地で昔から育てられてきたソバという「ストーリー」と気候・風土が育んだ在来種ならではの「美味しさ」を知ってもらいたい。全国に地場の食材をアピールしたいという想いがあると思います。地場の環境、気候が育てるソバの味わいは他のどこにもないオンリーワンのものです。
全国には知られざる在来種がたくさん存在します。ソバは基本的に淡白な穀物だけに他産地や他品種との差がつきにくい食品ですが、日本人がこよなく愛する嗜好性の強い食品でもあります。栽培の難しさや需要と供給のバランス、採算などの問題はあるものの、この時代だからこそ現代では姿を見せなくなった在来種を大切にしたい。いつか47都道府県すべてで在来品種の蕎麦が栽培されるようになり、各地でそれぞれの郷土そばが食べられるようになれば、日本のそば文化はもっと豊かになるでしょうし、全国の在来蕎麦を求めて蕎麦っ喰いたちが蕎麦行脚を行うことでしょう。
そんな時代がいつか来ることを夢見て・・。
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