京都伏見にある手打ち蕎麦いまふくさん。
ご主人の中根さんは全国各地のそば産地を訪ね歩き、ご自身の目と舌で買い付けてきた貴重な在来ソバを自家製粉の手打ち十割そばで食べさせてくれます。
中根さんは原料の良さをいかにして挽きだしてやれば美味しいお蕎麦になるか、また原料によって挽き方を変えた時にどのような違いが生まれるかなどの研究に余念がなく、とても貪欲でいらっしゃって僕が「この人はソバの変態だな」と思っている方の一人です(笑)
お店の入り口横に掲げられているこのプレートには、この日に食べることのできるお蕎麦の種類が紹介されていて、収穫年度や産地、品種、挽き方などが書かれています。
以下、簡単に説明しますと、
最上段のプレートは蕎麦の挽き方です(↓右から)。
・細=細かく挽いた滑らかな舌触りの蕎麦
・黒=玄そばを皮付きのまま挽いた全粒タイプの色濃い挽ぐるみ蕎麦
・黒粗=黒を粗めに挽いた野趣あふれる蕎麦
・粗=脱皮した実を粗挽きにした上品ながらソバの甘みが感じられる蕎麦
・発芽=玄そばを発芽させ、酵素活性による甘みを引き出した蕎麦
2段目は産地です。
(右から)三重いなべ、千葉成田、長崎対馬、埼玉三芳、徳島三好、広島神石、新潟三島上条、福井丸岡。
3段目は収穫年度と時期です。たとえば「’17秋」と書かれているのは、2017年の秋に収穫された秋そばという意味で、「’16夏」は2016年の夏に収穫された夏そばということです。
4段目は品種です。常陸秋そば、千葉在来、対馬在来、祖谷在来、信濃一号、大野在来。日本で栽培されているソバの品種は在来種や品種改良されたものを含めると100種類以上あります。
5段目はそば粉の含有率です。十割はつなぎ粉を含まないそば粉100%の蕎麦、九割五分は95%がそば粉で5%だけつなぎ粉が入っている蕎麦ということです。
最下段は挽き方やその他の情報です。
・一割玄入り=皮を剥いたソバの実に1割だけ玄そばが入ったもの
・手刈り天日干し=機械を使わず人の手で収獲したソバを天日乾燥させたもの
・手挽き=人の手で石臼を回して製粉したもの(1時間に10食~13食分ほどしか取れません)
今回はお料理もお蕎麦もすべてお任せでお願いしました。
産地、年度、品種、玄挽き、丸抜き、手挽き、つなぎ粉の有無など、原料によって細かい条件を一つ一つ選んで一枚のお蕎麦を作り上げていくのは非常に手間と時間のかかる仕事です。お料理も一切の妥協がなく、仕込みだけで1日の大半を消費されるのではないかと想像するに難しくありません。
お蕎麦には刺身が付いてくるのですがこれが実に美味しい!
麺帯では感じられないソバ本来の味がよく分かります。
産地や挽き方の異なる全5種類の蕎麦は、見た目の美しさはもちろん、華やかさや香ばしさの異なる香り、甘さや穀物味が様々に感じる味わい、サクッと歯切れが良かったりムチムチと心地よく歯を受け止める食感など、五感にグッとくる中根さんの想いが詰まった味わいを感じます。
中根さんのお蕎麦は原料の見立てから始まり、粒の形や大きさ、品種ごとの特徴、土壌、乾燥調製の度合い、含水率など、まずもって幅広い知識と経験に基づいた目利きができて、その上でご自身の石臼の特性を把握し、どう挽けばどういうそば粉になって、どんな蕎麦になるかということが原料を見た段階で想像できていないと実現できない仕事です。
本当に原料と製粉の事を良く分かっていらっしゃるので、気さくな中根さんとお話しているとお蕎麦屋さんというよりは同業者や農家さんと会話している感覚で、お蕎麦をいただきながらとても勉強になります。全国には色々なそば屋さんがありますが、この仕事にどれほどの労力をかけて取り組んでいらっしゃるかが分かるからこそ中根さんの蕎麦に対する強い想いが伝わってきます。ここまでストイックなそば店はなかなかないでしょうね。
蕎麦好きの方にはぜひ、一度、いまふくさんのお蕎麦を味わっていただきたいです。
[自家製粉手打ち十割蕎麦いまふく]
〒612-0023 京都府京都市伏見区深草町通町26
TEL:075-643-1958
営業時間:11:00~14:00/18:00~21:00
定休日:月曜日・第一火曜日(祝日の場合は翌日)