[朝日新聞(関西食百景)2016.11.19] に福井の早刈りそばについて取材いただきました。

(関西食百景)そばだつ香り 若く青く

熟す前の若々しく美しい様は食の世界でも人々を魅了する。
10月下旬、福井県坂井市丸岡町に茂る、草丈1,2メートルほどのそば。白い花や緑色の葉がついたまま、次々とコンバインがなぎ倒す。シャッ、シャッ……。刈り取られた実がタンクに当たる音が響いた。約35ヘクタールのそば畑で、今年初の収穫をしていた農家の大川勝利さん(51)が「この音を聞くのが、収穫の喜び」と豪快に笑った。福井の少し早い新そばの季節がやってきた。

それは「早刈りそば」と呼ばれる。
収穫時、実が黒く熟す前の緑色の状態のものが50~60%含まれる成長途中で刈り取る。黒い完熟の実が80%を占める通常期より1週間から10日早い。熟しかけの絶妙なタイミングで刈らなければならない。鮮やかな緑色をした実は、手ですくうと、若葉のような青々とした匂いがした。この独特の風味が特徴。楽しめるのは数週間だ。

[朝日新聞(関西食百景)2016.11.19] に福井の早刈りそばについて取材いただきました。
■収穫され、コンバインから袋に移される早刈りそばの実。青々とした香りに包まれた=福井県坂井市

県食品加工研究所によると、早刈りの実は、完熟の実より香りが強く、含まれるルチンやポリフェノールなどの栄養価が高い。その半面、そばらしい味が薄く、成長途中で刈り取るため通常と比べ、収穫量が半分だ。

一瞬の輝きを放つ早刈りそばの取り組みが始まったのは、ここ数年。「福井は栽培規模では勝てない。鮮烈な色と香りで勝負したい」と大川さんは言う。

あられ対策で収穫、季節感じる風味

福井県では通常のそばの実を収穫する11月上旬の直前、度々あられによる被害を受けてきた。坂井市の大川勝利さんは本格的な寒さがくる前に早刈りし、全滅のリスクを避けている。

早刈りは2002年に手探りで始まった。9月から市場に出る北海道産に比べて遅い福井産の新そば。橋詰製粉所(福井市)の橋詰伝三会長(77)が大野市の農家に時期を早められないかと打診した。黒くなる前の実を刈ってみると、「今までとは別物。色や風味の良さに驚いた」と商品化を考えた。

課題は収穫。枯れて乾いた実を収穫する汎用(はんよう)コンバインを通常の収穫時期より早く畑に入れると、水分を多く含んだ青い葉や茎で詰まった。エンジンがやられ、100メートルで止まった。

2004年、県農業試験場と農機具メーカー、大野市と丸岡町(現坂井市)の農家が共同でコンバインの改良を進め、3年かけて早刈りに対応できるようになった。大川さんも改良コンバインを使う。実は約36時間低温乾燥し、ゴミや石を取り除く。青臭かった実は水分が飛び、落ち着いた緑色になった。これが白いそば粉に生まれ変わる。

[朝日新聞(関西食百景)2016.11.19] に福井の早刈りそばについて取材いただきました。
■早刈りそばを挽(ひ)く石臼を見つめるカガセイフンの加賀健太郎社長。石がこすれ合う音があちこちから聞こえてくる=福井市

製粉会社カガセイフン(福井市)は早刈りそば粉の販売に力を入れている。11月上旬から12月中旬に販売し、関西、関東、東海地方のそば店や全国のそば打ち愛好家から人気が高く、3,4割を県外に出荷。価格は完熟そば粉より2割高い。4年前から事前予約制にした。
工場には石臼29台がずらり。ゴロゴロという摩擦音を6代目の加賀健太郎社長(35)が聞いていた。「音程の乱れや異音があると、粉を均等に挽けていない。石臼が自分の調子を伝えてくれる。」石ウ社もっとも古いもので200年前のもの。新しい石臼は水分を含み、形が定まらないので15年以上寝かせる。古いほど、むらのない粉を挽ける。

減反・転作で栽培盛んに

福井県によると、県内のそば栽培は昭和40年代の国の減反政策に伴う転作で盛んになった。2012年の作付面積は全国4位の3,720ヘクタール。
早刈りは作付面積が大きい大野市と坂井市で行われ、出荷量は県全体の2,3割。県の担当者は「早刈りそばなど地域の特徴を出したそば作りで、認知度を高めていきたい」と話す。
県内の製粉業者すべてが今でも主に石臼挽き。県玄そば振興協議会によると、香り、味などで優れているという。機械(ロール)挽きは2つのローラーを高速回転させ、挽くというより潰して粉にする。石臼より200~300倍の製粉能力があるが、摩擦で高熱を発生させ、風味が飛びやすいという。石臼は目(溝)のメンテナンスも難しいが、すりながら練るという作業で粉にしていくため香りが飛びにくく、しっとりとしている。

[朝日新聞(関西食百景)2016.11.19] に福井の早刈りそばについて取材いただきました。
■コンバインの速度は早歩きほどだ(写真上)=10月27日、福井県坂井市
■和食料理店「光安」の福井県産早刈りそば粉を使ったそばがき。さわやかなそばの香りを残して、すっとのどを通っていった(写真下)=京都市上京区

京都市上京区の和食料理店・光安は福井県産のそば粉を使ったそばがきをコースの〆椀に出しており、この時期、早刈りそば粉を使う。「新米と同じ感覚。季節を感じてもらいたい。」と店主の光安裕一さん(45)。「ほどよいバランス」を心がけているという白みそ仕立てのそばがきを頂いた。箸でつかむのがやっとの、とろっとしたそばがき。香りが控えめなマグロ節のだしとともに、上品でさわやかな風味が口に広がった。

朝日新聞(関西食百景)[2016.11.19発刊]

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